シリーズの中で唯一まだ読んでいなかった一冊。さっさと読めばよかったです。
好きなシリーズなので色々な感情を浮かばせながらページを進めてました。一気読みしたので感想を残します。
手に取ったきっかけ
職場のある自治体の公共図書館の司書さん達と仕事で関わることが増えたので、退勤時にそこに寄って本を数冊借りるという習慣が最近続いています。
夏川草介さんは元々好きな作家で大体の著書は読んでいたのですが、図書館で夏川さんの本を配架してる場所がたまたま目に入った際、この『0』を見つけ、シリーズでこの本だけまだ読んでいなかったことから手に取りました。
物語の要素
- 医者
- 地域医療
- 登山
- 松本市
- 大学生
- 「神様のカルテ」シリーズ登場人物の過去
感想
神様のカルテでは第一話から主人公「栗原一止」が多忙の日々を送る様子が描かれています。ではそんな栗原先生がこの年中無休の忙しい病院の門を叩いたきっかけはどうだったのか、新人の頃はどんな日々を送っていたのか。今回読んだ『0』ではその辺が詳細に描かれていました。シリーズのファンにはたまりません。
栗原先生に限らず、4つの短編の中でシリーズの他の登場人物を主人公にしてそれぞれの過去が語られていきます。
自分はこの神様のカルテの世界で後々何が起こっていくのかを一通り把握してしまっています。その視点から4つの物語を見ると実に色々な感情が湧き上がってくるんですよね。このセリフを語ったこの人物は後々ああなっていくんだよなぁという感じで。何とも言えない感覚です。
逆に、「ああ、だからこの人はこういう物の言い方考え方をしていたのか」と登場人物の内面を新たに発見することも何度もありました。
引用
「ヒトは、一生のうちで一個の人生しか生きられない。しかし本は、また別の人生があることを我々に教えてくれる。たくさんの小説を読めばたくさんの人生を体験できる。そうするとたくさんの人の気持ちもわかるようになる」
死を間近に迎えている元国語教師の男性の主治医となり家を尋ねた栗原研修医に対し、その男性が語った言葉。以下、やりとりが続きます。
「困っている人の話、怒っている人の話、悲しんでいる人の話、喜んでいる人の話、そういう話をいっぱい読む。すると、少しずつだが、そういう人々の気持ちがわかるようになる。」
「わかると良いことがあるのですか?」
「優しい人間になれる」
この問答の直後、主人公の栗原医師はその答えを意外なものと驚き学ぶことになるのですが、読んでいた自分もまた衝撃を受けました。
読書を通して自分以外の人生を追体験するという考え方は読書の意義の一つとして元々考えていました。
が、そこから他者を理解し他者に優しくなるという答えは考えたこともありませんでした。あくまで「人生2週目状態になれるぞ自分を高めるぞ」ぐらいにしか考えていませんでした。
思えば『神様のカルテ0』という一冊は他者理解を読者に体験させる内容のように思えます。登場人物の意外な側面を見せ、人というものは簡単に嫌ったり責めたりをきめてしまうものではないんだと。相手の意図や背景をどうにか察しようとする姿勢が大切なのだと。この本での読書体験はまさに「ああ、そういう背景があったのか」の繰り返しです。
優しさというのはね、想像力のことですよ
小学校教員の端くれとして胸に刻んでおきたい至言。子ども達に求めていきたい優しさの一つの形として。
兎にも角にも自分としてはこの栗原研修医が元高校国語教師の患者から受けた会話、というよりも授業が特に読んでて心に残りました。
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